与えられた時間の中で、自分らしく過ごしていきたい。
今回はヴィンテージウォッチが持つ独特の世界観や魅力を、コーディネートのポイントと併せて、スタイルプロデューサーの廣瀬規子さんに綴って頂きました。
今回、廣瀬さんが選んだのは、ハミルトンの「カーライル」と、ヴァン クリーフ&アーペルの「ラ・コレクション」の二本。
01. ハミルトン「カーライル」
1930年代に製造されたハミルトンの名品を、1990 年代頃に蘇らせたアンティーク復刻シリーズ「レジスタードエディション」の「カーライル」。 細身のトノー型ケースやダイヤルなど、原型モデルと同様にアールデコ調を意識したデザイン。
02. ヴァン クリーフ&アーペル「ラ・コレクション」
1906年にパリで誕生したハイジュエリーメゾン「ヴァン クリーフ&アーペル」の腕時計「ラ・コレクション」。 18金ホワイトゴールドを素材に使用した、ジュエラーとしてのこだわりが垣間見える一本。シンプルでありながら、エレガンスも感じさせる洗練されたデザインが魅力。
「人に与えられた時間は24時間。その中でどう生きていくのか、考えながら大切に生きていきなさい」。
幼少期の頃から父に口すっぱく言われてきた言葉。
若い頃はその言葉の重みが少しうざったくもあったけれど、 人生の価値観をも変えてしまうような大きな災害、結婚、病気、身近な人の死、子供の誕生、初めての子育てなど、 多少なりとも「生と死」について真剣に考える機会が増えてきた40代の今、時間が宝物であること、 人やものを繋げていくことの大切さを自然と意識するようになりました。
このハミルトンのヴィンテージウォッチは1930年代に製造されたハミルトンの名品を90年代頃に蘇らせた復刻シリーズ。 1930年代と言えば、女性らしいファッションが主流になり、90年代、そして現在のファッションともリンクする時代。
普段の生活は、髪を振り乱して娘を追いかけている私。 だからこそ、どんなにカジュアルな出で立ちの中でも、ほんの少しで良いから「女性らしさ」「品」だけは失わないようにしておきたいと思っています。 そんな気持ちの表れか、アールデコ調を意識したデザインになっているこのハミルトンの時計を着けると、 母である前に女性であることを意識できるような気がしたのです。
バーガンディ色の柔らかなシルクシフォンのワンピースに合わせてみると、時計のヴィンテージ感がより際立って、シンプルだけどこなれたスタイルになってくれる。 ヴィンテージの良いところは、このこなれ感を作れるところ。スタイリングに取り入れると、足し算にも引き算にもなってくれて、バランスを上手く取ってくれるから好き。
ヴァン クリーフ&アーペルのラ・コレクションは、老舗ハイジュエリーブランドの貫禄と淑やかさを兼ね備えた美しい時計。 大き過ぎず、小さ過ぎずのちょうど良いラウンドフェイス。カジュアルにもフォーマルにも合わせやすい。 ホワイトゴールドのケース、本体の薄さが上品さを際立たせています。
白のブラウスにデニムを合わせて清潔感のある大人のカジュアルスタイルを意識しました。 老舗ハイジュエリーブランドの実力とも言いましょうか、シンプルなスタイリングに上品な存在感でワンポイントアクセントに。
思えば、ずっとずっと、何かに疲れた時、自分をリセットする時、私は昔の古い映画を観て気持ちを整えてきました。
スクリーンに映る俳優、ファッション、インテリアなど、 映画全体の情景がただただ美しくて、 粗っぽい画質が妙なあたたかさを感じさせてくれて、観ているだけで気持ちが落ち着くのです。 現代にも素晴らしいものは沢山ありますが、私はどこか時代を感じるもの、そこから感じ取れる味やあたたかさがあるものが好きです。
これは少し最近の映画になりますが、私の好きな映画にウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』 という現代から1920年代に主人公がタイムスリップする映画があります。 1920年代に活躍していた文豪たちが出てきて、とても華やかで明るい社交の世界を垣間見ることができるのですが、 まさにヴィンテージウォッチを身につけていると、前の持ち主がどんな人だったのか、少しだけ気になってみたりして。
身につけながら妄想に浸る。そんな時間もヴィンテージのモノを身につける楽しみの一つです。
世界中の人々に平等に与えられた1 日24時間。私たちはそれぞれに色んな瞬間を刻みながら生きています。 もうすぐ3歳になる娘を自分の過去と重ねながら見ていると、この瞬間があっという間に過去になり、 人は気がつくと最期の時を迎えてしまうのかな? そんな風に感じたりします。
何か生きにくい世の中だったりするけれど、だからこそ、毎日を、今この瞬間を、自分が心地よく感じる人やモノに囲まれながら過ごしていきたい。
そして、全ての良き出逢いを大切に繋いでいけたらとも思うのです。
(廣瀬規子さん プロフィール)
航空会社の客室乗務員から、ジョルジオアルマーニジャパンに入社、アパレルの世界へ。 その後、スタイリストとして活動。 現在はスタイルプロデューサーとしてイベントや商品のプロデュース、ファッションブランドのコンサルティングをはじめ、 主宰するウェブマガジン『Nstyle』にてリアルな親子旅をはじめ、大人の女性のためのライフスタイル全般について情報発信している。 また、バンクーバー、ニューヨークコレクションへ登場したアパレルブランド「HAMON」のブランドディレクターも新たに務める。 2020年1月には表参道に旗艦店がオープンすることとなり注目を集めている。
毎回ゲストを招いてヴィンテージウォッチについて綴っていただく「今、ほしいのは、ヴィンテージウォッチ」。 第5回目のゲストは、大河ドラマ『いだてん』(NHK 総合)に出演し、モデルとしても活躍する田中シェンさんにご登場いただきます。
お楽しみに!