人生のステージにおいて、身に付けるものの存在は変化していくもの。
自分らしさとは、「人からどう見られるかよりも、どんな自分でいたいか」という事なのかもしれません。 今回は、テレビ局のアナウンサーから転身し、フラワーアーティストとして活躍する前田有紀さんにヴィンテージウォッチの魅力を綴って頂きました。
今回、前田さんが選んだのは、ディオールとティファニーの二本。
01. クリスチャンディオール「45.122.2」
ブランドの頭文字である「CD」のロゴレリーフが施されたダイヤルに、シャープなラグや尾錠が特徴的なディオールのレディースウォッチ。 1990年代製のディオールの腕時計は、使用できるコンディションで現存している個体数が少ない珍しい商品です。
02. ティファニー「アトラス」
ティファニー本店に掲げられたアトラス・クロックからインスピレーションを得てデザインされた腕時計。 ベゼルにはローマンインデックスが施され、ケースには18Kを使用した、品の良さを感じさせるクラシカルな雰囲気が魅力。
私の人生で時計ほど思い入れのあるものはない。
少し大げさだけれど、時計にまつわる私の歴史には3つの時代がある。20代、30代前半、そして今。 それぞれの時代で、生き方への心持ちが大きく変わった。そして、時計に対してもかつてとは全く違う思いを抱いている。
最初の時代は、「テレビ局のアナウンサー時代」。
日々目まぐるしく様々な番組に出演し、オンでもオフでも時間との闘いだった。 あの頃、私は身につけるファッションも時計も、「人から見られて、おかしくないこと」をとても大切にしていた。 派手すぎず、質素すぎず、違和感のない装いや言動をいつも心がけていた。服もなんとなくみんなが買っているようなブランドのものを選ぶことが多かった。 やりたいことは特になくて、将来のことを考えると頭がぼんやりしていた。
そんな「おとなしく、目立たないように」と慎重に生きてきた私は、“花”との出会いによって人生を大きく変えた。 「自然が恋しいなぁ」とふと1輪花を飾り始めてから世界が違って見えたのだ。花は、自由で、のびのびしていて、明るい。 部屋に飾っていた花は、2輪、3輪と増えていき、習い事をし始め、次第に花を今後の仕事にできないかと真剣に考えるようになった。
そして、イギリス留学を経て、東京の花屋で修行のために働き始めた「ゼロからの再スタート時代」。
花屋での日々は思っていたよりも過酷で、たくさんの荷物や植物を運び、土にまみれ、水仕事も格段に増えた。 時計は水にも濡れるし、ぶつけてすぐ壊れてしまいそうで、クローゼットにしまったままになった。そうして、花のことばかり毎日考えて夢中で過ごしていた。
思い返すと時計だけではなくて、ファッションも日々の暮らしもガラリと変わった。
前職の時のように、おしゃれな服や上品な服は着なくなって、ボロボロのTシャツにデニム姿でいつも過ごしていた。 手もアカギレや擦り傷でいつも荒れていた。でもそんな自分を、今の方が自分らしいと思い、「ただ、花のことさえもっと勉強できたらそれでいい」。そう思っていた。 時計のことを思い出す暇もなく、すっかり忘れて過ごしていた。そして、出産を機に修業先を辞めて独立し、子育てをしながら“花屋”として起業した。
最後の時代は「自分らしく生きる30代後半のいま」。
都会の人の暮らしに花を届けることを大きな目標に持って、仲間と一緒に夢を追いかけている。 友人からの依頼の花束中心だった仕事は少しずつ広がっていき、 今では色々な企業の方と打ち合わせをしながらの作品作りや大型の装飾を手がけさせていただく機会も増えてきた。
長い時を経て、やっと自分らしさが何か、自分がどうありたいか、が見えてきた私は、 「どう見られるか、ではなく、自分らしくいられるか」を大切にするようになり、装いも言動も迷いがなくなった。 自分らしくいられるために、自分の着たいものを着る。そんな流れで、最近再び時計を身につけるようになった。 長い年月を経て、時計を取り出して腕につけた時、たまらない喜びが体中を走った。
普段の暮らしではリラックススタイルが定番となっている私だけど、 特別な記念日など夫と待ち合わせして2人きりでレストランに行く時には、 ちょっと背伸びをして黒のシックなワンピースを着ることも。 そんな時には、今回選んだDiorの上品な佇まいのヴィンテージウォッチがよく似合う。 所作もエレガントになるような大人時間も大切にしたいと思うようになった。
また、旅先や休日に美術館やレトロな洋館を訪れる時は、クラシカルな気配漂うティファニーのATLASを合わせたい。 ローマ文字が数字に使われているのもレトロで素敵。旅のお供に連れて行きたい時計のひとつ。
自分のことがよくわからなかったアナウンサー時代、自分らしく生きるために必死だった修行時代を経て、私はやっと自分らしい人生を見つけた。
ヴィンテージへの考え方は、イギリス時代に学んだ。どの世代の男も女も、出会った人はみんな古いものを大切にしていた。中世から続く町並みの中で、昔話もたくさん教えてもらった。週末にはいつもどこかでアンティーク市が開かれていた。 ストーリーを持つものを身につけることでそのものへの愛着は深まるし、歴史を知ることは自分自身を知ることにもつながる。“花”という一生の仕事に出会えて、長く一緒に働きたい仲間にも恵まれた。
これからは一生大切にできるようなヴィンテージウォッチに出会えることも楽しみにしている。
(前田有紀さん プロフィール)
フラワーアーティスト。 10年間テレビ局に勤務した後、2013年イギリスに留学。コッツウォルズ・グロセスター州の古城で見習いガーデナーとして働いた後、都内のフラワーショップで3年の修業を積む。 「人の暮らしの中で、花と緑をもっと身近にしたい」という思いからイベントやウェディングの装花や作品制作など、様々な空間での花のあり方を提案する。 2018年秋に自身のフラワーブランドguiを立ち上げる。
gui https://gui-flower.com/
毎回ゲストを招いてヴィンテージウォッチについて綴っていただく「今、ほしいのは、ヴィンテージウォッチ」は今回で最終回。 ゲストとして登場いただいた女性たちのヴィンテージウォッチに馳せるそれぞれの想いを全6 回でお伝えしました。 現代の現行品の腕時計にはない、時代を問わない品をまとったヴィンテージウォッチは、次の世代へ繋げたいと思えるような価値あるものばかり。
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